お客様の声

1 / 1ページ(全1件)
星1つ星1つ星1つ星1つ星1つ 近藤 富様
2023/08/08

この名盤は、中野雄さんが著書の中で紹介されていて、その存在を知っていたが、不勉強ながら長らく未聴であった。2年ほど前にベーレンプラッテで見つけて購入した。こういう名盤のたぐいを数多く揃えているところが、このお店の良い所だと思う。私が買ったのは東独エテルナ盤であるが、西側諸国ではフィリップスから出ていた録音だと思う。
ベートーヴェンの「皇帝」もかなりの数を聴いてきたが、王者の風格というものを真の意味で表現しているのは、エトヴィン・フィッシャー/フルトヴェングラー/フィルハーモニア管と、このアラウ/コリン・デイヴィス/シュターツカペレ・ドレスデンの二つに絞られるのではないかと思われる。
このアルバムは、第1楽章の始まりからして、普通の演奏とは違う気迫と気品に満ちている。アラウのピアノには緊張感が漂い、デイヴィス指揮のオケは雄大なスケールである。まさに「皇帝」の名にふさわしい。ピアノもオケも、音がとても美しい。第2楽章は、切々とした祈りのようなものを感じさせる。聴いていて安らぎを覚える。アラウのピアノは聴き手にやさしく語りかける。トリルが非常に美しい。ピアノもオケも、どこか孤独感を漂わせている。第3楽章は華麗だが、華麗過ぎないところが良い。あくまで内面の充実を重視している。抑制の効いた力強さに貫かれている。終盤の追い込みも見事。
録音は薄い絹のヴェールがかかったような独特の美しさがあるもの。上品な音であり、聴いていてうっとりする。エテルナ盤とフィリップス盤では、また違った音なのかも知れない。興味のあるところである。
このような名盤をLPで聴けるというのは幸せである。これからも愛聴していくことは間違いないだろう。

1 / 1ページ(全1件)