スヴェトラーノフがソビエト国立交響楽団を指揮した、チャイコフスキーの「悲愴」。スヴェトラーノフという人は、昔TVでその指揮姿をちらっと見かけたぐらいで、きちんと聴いたことがなかった。ソビエトが崩壊してロシアになっても精力的に活躍したようで、よく知らないのが恥ずかしい限りである。
「悲愴」というと、どうしてもムラヴィンスキーとの比較は避けられないと思うが、簡単にまとめると、貴族的で鋭く繊細なムラヴィンスキーに対して、庶民的で丸みがあってやや大らかなスヴェトラーノフということが出来るかと思う。また、前者には要所で激しさがあるが、後者にはあまりないということも言える。
さて、スヴェトラーノフの「悲愴」。第1楽章は、序奏が深く沈み込み、心にしみ入るように始まる。主部に入っても沈んだ感じは続く。第2主題は甘美さというよりも、はかなさを感じさせる。展開部は抑制の効いた激しさである。第2楽章は、静かな美しさが印象的。暗さのある安らぎという感じである。第3楽章は、勇壮な感じはもちろんあるのだが、どこか沈んだ気分がある。後半はけっこう盛り上がるが。第4楽章は、やさしく甘美な悲しみが心にしみる。しかし、感情に溺れることはない。全体的に、抑制された上品な演奏である。貴族的ではないが、上品な庶民という感じがする。
録音は各パートが鮮明に聞こえるが、クールではなく、あたたかみがある優秀なものである。ソ連のメロディア原盤を、仏EMIが出したもので、音が上品。演奏の上品さに見合っている。
しばらく以前に購入して以来、事あるごとに聴いている愛聴盤である。演奏に抑制が効いているせいか、飽きがこない。良い出会いであった。
総評: 5.0 (1件)