(ベートーヴェンの交響曲演奏を中心に)
日本においては、高齢の巨匠が、非常に熱烈に歓迎され・尊敬される傾向が強いようだ。
ちょっと前では、朝比奈隆やギュンター・ヴァントのライブでのもの凄いフィーバーぶりや、カール・ベームの日本における実況録音のCDでも聞ける、聴衆の異常ともいえる熱狂ぶりは、記憶に新しい。それも、共通してベートーヴェンやブルックナーといったドイツ・オーストリアの大作曲家の作品を取り上げることが多いようだ。しかし、そんな彼らの中にあって、人一倍多かった絶賛とともに、批判も(特にわが国では、音楽以外での私生活においてでも)それと同じくらい多かった巨匠がいた。
ヘルベルト・フォン・カラヤンである。
彼は、生涯ベートーヴェンの交響曲にこだわり続け、録音・録画にと数種類の全集を残した。それだけではない、「第五」・「第七」などは、全集とは別に、単独のレコーディング・録画も行っている。それらを合わせると、一人の指揮者のベートーヴェン録音としては、ほかを圧倒する数になる。同一曲の再録音の多い、彼のディスコグラフィの中でも、特別な位置を占めている録音ということになる。
今、我々がLPで入手できる、カラヤンのベートーヴェンの全集は4種類ある。初めの一つのみ、フィルハーモニア管弦楽団とのセッションで、あとの三つは終身音楽監督を務めた、ベルリンフィルとのものである。
1950年代のはじめにEMIの名プロデューサー、W.レッゲとの共同作業で生まれた第一回目の全集は、彼のベートーヴェン解釈の原点といってもよいだろう。すなわち、流線型を描くような、なめらかな旋律の歌いまわし、スピード感たっぷりのテンポが、後の全集よりもストレートに伝わってくる。当時のフィルハーモニア管弦楽団も、名手揃いで、オーケストラの技術的な観点からいっても、今聴いてみても決して古めかしい印象は受けない。
第二回目の全集は、それから約十年後の1960年前半における音楽的遺産である。
ベルリンフィルの監督就任後、数年が経って、ベルリンフィルという、世界最高のオーケストラと完全に一体となった演奏は、聴く者をぐいぐいと引き込んで、飽きさせることはない。この全集で、両者が創り出すベートーヴェンは、世界的なステータスを築くことになる。当時の、ベルリンフィルの録音のホームグラウンド(演奏会では、まだ、映画館が使われていた)、ベルリン・イエス・キリスト教会のアコースティックの良さも相俟って、ずっと長い間(そして、今でも)、数多いベートーヴェン演奏の中でも、リファレンス的な位置づけを保ってきている。オーディオ的にも、この全集の意義は大きく、重厚なベルリンフィルのサウンドを見事にとらえた録音は素晴らしく、これを完璧に再生するのはとても難しい。
1963年、念願の新フィルハーモニーホールが完成した。しかしながら、カラヤン、そしてドイツ・グラモフォンのスタッフは、録音会場をイエス・キリスト教会から、ここへはすぐに移さなかった。よほど、この古びた教会に愛着があったのだろう。
何回かの試行錯誤の後やっと、完成から十年以上たってから、新ホールで録音を始めた。レパートリーの中には、もちろんベートーヴェンも含まれており、これが、第三回目の録音である。
カラヤンをして「今や、私とベルリンフィルとの関係は最高である」と、言わしめた演奏は、まさに最高という言葉がぴったりである。当時、この全集を初めて聴いた筆者は、あまりにも完璧な演奏に、ある種の「退屈」さ、さえ覚えた記憶がある。磨きぬかれた音色に惚れ惚れしたり、ものすごく難しいパッセージでも、何事もなかったかのように、さらりと演奏するのを聴いて、あっけにとられたのが、つい昨日のことのように思い出される。また、それまで慣れ親しんだ、イエス・キリスト教会と大幅に異なるフィルハーモニーホールの音響に戸惑いと、新しい可能性を感じたのも、今となっては、懐かしい思い出だ。
1980年代に入るとオーディオは、革新的な技術革新を成し遂げることになる。すなわち、デジタル録音、そしてCDの時代に突入するのだ。常に、“何か新しいもの”を求め続けた彼は最後の力を振り絞り、憑かれたように、今までのレパートリーをデジタルで再録音するようになる。それらの中に、ベートーヴェンの交響曲全集があったのは、言うまでもない。
そして、彼は、最後のベートーヴェンをライブ録音で残してくれた。(「第九」を除くこれらが、後のDVDのサウンドトラックとなった。)ここに記録されているベートーヴェンは、前の三つとは、異なる趣を呈している。具体的には、以前よりも速めのテンポで、さらりとした印象の演奏である。しかし、何回か繰り返して聴いてみると、その第一印象は、影をひそめ、大きな感動へと変わってくる。その演奏の陰にひそんでいる、彼のベートーヴェンへの執念が伝わってくるのだ。あえて、ドラマティックな表現を避け、素朴ささえ感じさせる彼の演奏の根底にあったものは、一体何だったろうか?
私は、それは、ベートーヴェンをはじめとする作曲家や彼らの残した作品に対する愛情だったのではないかと思う。
晩年、音楽とはあまり関係ないことが原因で、ベルリンフィルとの関係が悪くなってきた彼は、かつての友、ウィーンフィルとの仕事量を急激に増やすようになる。やはり、同郷の人間とは一番分かり合える、ということなのであろうか?その頃の、チャイコフスキーやモーツァルトには、今までベルリンフィルとの演奏には聴けなかった、不思議な、そして、あまりにも悲しい音が見え隠れする。
1989年4月下旬、彼はウィーンフィルとのコンサートとレコーディングを行う。曲は、ブルックナーの第七交響曲であった。その翌日、ベルリンフィルに辞表をたたきつけ、今後は、ウィーンフィルとのみ演奏活動をすると表明した。ウィーンの市民は大喜びし、国立歌劇場の支配人は、「カラヤンが帰ってくるのなら、ウィーンの空港からオペラ座まで赤絨緞を敷いて歓迎したい」、とまで言ったそうだ。
しかし、その約3ヵ月後、彼は心臓発作であっけなくこの世を去ってしまう。彼には、生まれ住んだオーストリアで、実りある晩年を送るには、残された時間があまりにも短かった。(信じられない話だが、彼は、ベルリンには自宅を持たずに、ホテル暮らしだった。)結局、このブルックナーが彼の最後の仕事となってしまった。
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